大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)1237号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(判旨)

原判決が公訴事実の如何なる点について犯罪の証明なしとして無罪の言渡をしたのであるが必ずしも明らかでないが、若し論旨第一点指摘のとおり本件の対象が麻藥であるという証拠が不十分であるというのであるとすれば、原判決は次の理由により破棄を免れない。即ち本件の対象が麻藥であるという検察官の主張に副う証拠としては(イ)現行犯人逮捕手続書中麻藥取締官渡部吉郞が高橋章の所持していた麻藥らしい紙包を検査した結果、麻藥と思慮された旨の記載と(ロ)原審第三回公判調書中証人渡部吉郞の供述として自分が麻藥取締官として被告人高橋章を検挙した同人の所持していた外は、薄い鼻紙で中は無色の硫酸紙に包んだ粉末一瓦を、都の衞生研究所の認定所へ試験に出したところ、鑑定の結果はヂアセモルネであつた旨の記載及び東京都立衞生研究技師田村健夫外一名作成者名義の認定書中、麻藥取締官より試験のため送付になつたナンバー九六七高橋章と書かれた褐色封筒に納めてある白色の袋に入れられた白色の粉末約一瓦は、ヂアセルモルヒネ及びクロームの反応を検出した本品は、麻藥取締法に規定された麻藥に該当するものと認定する旨の記載とが存するのみである。そして検察官の所論は右(イ)の証拠につき麻藥取締官は、搜査においてマルキース試験液を携行し、目的物が麻藥を含有するか否かを現場において応急的に試験するのが常であることは公知の事実であるから、右検査というのがマルキース試験による反応試験であり、同試験によつて被告人高橋章の所持していた物が麻藥たる反応を呈したことが容易に推認されるので、これが麻藥であることを認められると主張するのであるが、逮捕状の右記載が麻藥取締官において、マルキース試験による反応試験を行つた結果、麻藥であることを認定したという趣旨のものであるとはとうてい解せられない。次に前記(ロ)の記載につき検察官の所論は包紙が変つていても、褐色封筒に記載された番号と氏名により被告人高橋章が逮捕現場において所持していたものと、前記衞生研究所において麻藥と認定されたものとが同一であること明白であると主張するのであるが、この主張もまたたやすく採用することはできない。いやしくもこのように包紙が異なる以上包紙が異つても内容が前後同一物であるという点に関して今一段と適確な証拠が存在しない限り、たとえ所論のとおりの封筒の記載があつたとしてもこれだけで本件の対象が麻藥であると断定するに躊躇せざるを得ない。原審検察官は右(ロ)の証拠をもつてこの点に関する立証に事足りるという見解であつたことを記録上窺うことができるのであるが、これは検察官において証拠の価値判断を誤つたものといわねばならない。しかしながらそれだからといつて裁判所において本件の対象につきその麻藥たる証明不十分なりとして直ちに無罪の言渡をすることは早計のそしりを免れない。何となれば検察官の前記(ロ)の立証に追加して内容物が同一であるのに如何なる事情で包紙が変つたかという点につき納得の行く立証さえ行われれば本件の対象が麻藥であることを肯認するに難くないからである。このよう検察官の立証に追加して今一歩立証を補充することにより、その検察官の主張事項が証明されるか否かが判明するまでの段階に達しておりながら、検察官において証拠の価値判断を誤り、その立証の追加補充の必要なことに気付かずにいると認められる場合には、裁判所としては検察官に対し刑事訴訟規則第二百八条に則り右立証の追加補充を促し、又は刑事訴訟法第二百九十八条第二項に則り職権でこの点に関する証拠調を行うことができるばかりでなく、刑事訴訟法第一条の規定に掲げられているとおり事案の真相を明らかにすることを目的とする刑事訴訟の本旨に照らすと、かかる場合裁判所において検察官に対し右のとおり立証の追加補充を促し又は職権によりこの点に関する証拠調を行うことは、寧ろその当然採るべき措置であると認めなければならない。結局原審裁判所は右の如きその採るべき措置を怠り、その結果判決に影響を及ぼすべき事実誤認を招来した疑があるといわざるを得ないから、原判決はこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。

(説明)

前々号七事件についても述べて置いたが本判決も亦新刑訴における裁判所の職権発動をなすべき範囲に関する一事例である。如何なる場合に立証を促し釈明を求むべきか即ち当事者の処分を越えて裁判所が発動すべき限界は、具体的事案に即して判例が積み重ねられて明らかになつて行くであろう。

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